2020年1月26日日曜日

はじめてのピルツ・ディフェンス

1 はじめに

ピルツ・ディフェンスについて、初心者の方がすぐに実戦投入できるよう、原則的なことのみ書いていきます。指し始めるための足掛かりとして参考いただければ嬉しいです。
僕のレパートリーのひとつであり、あまり日本語で解説されているサイトも見ないので、ここにしたためることにしました。

2 ピルツ・ディフェンスとは

ピルツ・ディフェンスはスロベニアのGMヴァーシャ・ピルツにあやかって名付けられた、1.e4 d6 のオープニングから始まる戦法です。
しばしば守りの戦法として語られ、さほど強くないと思われることもありますが、僕はカウンターとタイミングが全ての有力な戦法だと思っています。守勢になるのはカウンターを狙っているからであり、ただ手をこまねいているわけではありません。スタンダードよりのトリッキーな戦法です。

【こんな人におすすめ】
☑1.e4 に対して、スタンダードな1...e5 や アグレッシブな 1...c5 は指したくない
☑臨機応変に、フレキシブルに指したい
☑カウンター・プレイで勝ちたい
☑将棋では振り飛車党だ

3 基本形



原則としてこの形を目指します。1...d6のあとは一目散にフィアンケットで固く囲うことで、強く戦うことができます。
1...e6 によって次のことができるようになります。
・e5からの攻撃からf6のナイトを守る
・白マスビショップを通す
・Nb8-d7でe5のマスを強化する
・相手のd4ポーンに対し、e7-e5 や c7-c5 のカウンタープレイを可能にする

さて、上の図のとおり組むのは簡単なのですが、白からの攻撃のいなし方を知らないと一方的に負けることになるので、カウンターについて学んでいく必要があります。
潰されないよう細心の注意を払っていきましょう。

4 e4-e5への対処

【仮想図】


ピースを一部表示したのが上の仮想図です。
初手e4から始まるオープニングなので、ナイトとポーンの支援を受けてe4-e5と指すのは自然な流れです。将棋でいえば、玉頭付近を棒銀で攻められているような感じ。

上図の 1.e5に対し、ここは1...dxe5 2.dxe5 Ng4 が面白い手順です。


ナイトの位置が不安定ではありますが、ナイトが動いたことによってビショップが働いてきて、白のeファイルのポーンが負担になっているのがわかりますね。
なお、白がh2-h3と突いているときはナイトがg4に行けないので、その場合は「(1)e5を突かれる前に、黒側からNbd7, e7 - e5を狙う(2)e5を指されたとき、ポーンを取らずにNe8とかわす」のいずれかを選択しましょう。

それでは、白からの攻めを3パターンに分けて解説します。

5-1 クラシカル・システム

1. e4 d6 2. d4 Nf6 3. Nc3 g6 4. Nf3 Bg7 5. Be2 O-O 6. O-O c6

白が穏やかに進めれば上図のようになります。
6手目は手の選択肢が多いところですが、 6...c6をおススメします。この手により、クイーンの可動域が広まり、さらにb7-b5を指すことも可能になりました。

7. e5 dxe5 8. Nxe5 Bf5 9. Bf4 Nbd7
 
「4 e4-e5への対処」ではポーンをポーンで取り返した白の攻めがうまくいかなかったので、8. Nxe5としましたが、黒は無理なくストラクチャーを発展させて不満がありません。

5-2 オーストリアン・アタック

1. e4 d6 2. d4 Nf6 3. Nc3 g6 4. f4 Bg7 5. Nf3 c5


d-fファイルのポーンを突くのがオーストリアン・アタックと呼ばれ、攻撃的な戦法です。
キャスリングで深く囲うのも一例ですが、ここでは機敏に動く筋を紹介します。
4-1で出てきた「6...c6」のような手よりも、ポーンを直接ぶつけるほうがいいでしょう。攻撃陣に手をかけた分、防御が立ち遅れているので、そこを狙います。

 6. dxc5 Qa5(Nxe4の狙い) 7. Bd3 Qxc5 8. Qe2 O-O 9. Be3 Qa5 10. O-O Bg4



若干損なビショップとナイトの交換にはなりますが、白からの強力な攻めを足止めできました。この後はクイーンサイドのナイトやルークの活用も見込めます。

5-3 150アタック

1. e4 d6 2. d4 Nf6 3. Nc3 g6 4. Be3 c6 5. Qd2 b5


最後に紹介するのが150アタックと呼ばれるオープニング。白はBc1-e3, Qd1-d2からロングキャスリングを目指すことが多いです。シシリアン・ディフェンスの際にもよく指され、上から殴り合いを目指す展開になります。
「5-1」で見られたc7-c6に加えてb7-b5を指しましょう。相手のナイトにプレッシャーを与え、ロングキャスリングを狙う相手にプレッシャーをかけます。
白はBe3-h6を狙っているため、黒は自身の黒マスビショップを動かさないほうがいいでしょう。

6. f3(6.O-O-O? b4 7. Na4 Nxe4) Nbd7 7. Bh6 Bxh6 8. Qxh6 Qa5


こうなると、白はかなり立ち遅れています。
一方、黒は確かに固く囲うことができませんが、Bc8-b7の活用、e7-e5 や c6-c5といったカウンタープレイ、O-O-Oなどの可能性があり、手に困りません。

5-4 3.Bd3対策

1. e4 d6 2. d4 Nf6 3. Bd3 e5



これについては深く解説しません。白が3.Nc3に代えて3.Bd3としてe4ポーンを守った場合、弱くなったd4ポーンをアタックしていきましょう。
この場合はピルツ・ディフェンスにはならず、フィアンケットを組まずにショートキャスリングすれば、なんら不満はありません。

6 おわりに

というわけでピルツ・ディフェンス速習でした。もちろん細かい変化はたくさんあるので、ここで解説したのはあくまで基本的なことだとご了承ください。
自分から積極的に勝ちに動く戦法ではありませんが、攻撃の反動をそのまま相手に返していく合気道のような発想が面白いと思っています。

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